研究コラムの記事
百寿者こぼれ話2(特別招聘教授:広瀬 信義)
史上最長寿男性は日本人です。116歳で亡くなりました。亡くなる数ヶ月まで自宅で生活しておられました。史上最長寿という証明はとても大変です。戸籍に記載されているから正しいということを言うと、世界中の専門家から厳しい反論が出てきます。大阪大学の権藤恭之准教授が中心となり、年齢の確認を行いました。公的な書類の確認(戸籍など)、エピソードが実際あっているかの確認など調べることは沢山ありますが、ご家族、市役所の方のお陰で詳しく調べることができました。その結果、ジグソーパズルがぴったり合うようにすべてのエピソード、公的な書類の辻褄があって116歳という年齢が確認されました。
次に、この方の病歴と検査結果がどう変わるかを調べることにしました。私どもはこの方が111歳の時から毎年調査を行ってきました。病歴を調べると大きな病気にかかったことはありませんでした。111歳からの検査結果は私どもが測った結果がありますが、それより前の結果を知りたいと思い、ご家族にかかりつけの先生はどなたですか?老人健診の結果はどうですか?とお尋ねすると、今まで医者にかかったことはない、老人健診も受けたことがない、と言う御返事でした。これにはビックリです。この様なスーパーセンテナリアンと言われる110歳以上の方はご病気をしていない方が結構おられます。病気をしないから長生きをしたのかもしれません。但し病気を乗り越えて110歳以上になった方も結構おられます。
認知症、ガン、動脈硬化、糖尿病などは年齢が高くなるほど病気を持つ方が多くなります。つまり、これらの病気の一番の原因は老化であると考えられます。とすると、老化を遅くしたり止めたりすることが出来れば、認知症、ガンなどにならない可能性があります。従来は動物などを使って老化の研究(老化科学、aging science)をしている研究者と高齢医学の研究をしている研究者(医師が多いです)はお互いに独立して別々のことを研究していました。基礎老化の研究者は線虫、ショウジョウバエなどを対象に何故老化が起こるのか、どんな方法で生物の老化を抑制することが出来るのかなどを研究しており、ヒトはあまり研究されていませんでした。高齢医学は主に医師により研究が行われており、認知症、高血圧、糖尿病などの高齢者における様々な疾患の診断治療をどうするのかと言うことが中心でした。基礎老化から得られた結果をどのようにヒトに応用していくかについてはあまり考えていなかったように思います。新たに基礎老化の結果をヒトの加齢に伴って起こる疾患の予防、治療に役立てるようにしようという考えが2010年頃より提唱されてきました。この新たな研究方向を表す言葉としてgeroscience(ジェロサイエンス、geroは老化という意味です。Scienceは科学という意味ですので、結局は老化科学で同じ意味です)が使われるようになってきました。ヒトの老化、老化に伴って起こる様々な疾患を、老化をコントロールする事により予防しようという考えです。今はaging scienceよりもgeroscienceと言う方がかっこよい言葉になりました。